経験例35 パニック障害 32才 男性 【 パニック障害の治し方 】

発病の経過と症状

5年前に発症。病院にてパニック障害または不安神経症と診断された。「一人での外出時には強い恐怖を感じる・人混みや出口がない建物あるいは出口の遠い建物の内部が怖い・バスに乗れない・パニック時は喉がつまり息が出来なくなると言う不安から死の恐怖を感じる・予期不安時、喉から胃にかけての閉塞や詰まりを感じる」などの症状で相談があった。病院ではレキソ◯ン及びデジレ◯を戴いているとのこと。小売業で1日12時間、週に6日間働いている頃に、少量の飲酒中「動悸・焦燥感」が出て慌てて帰宅しようとすると手足や胸が痺れてきたために死ぬと思い途中の得意先の家に飛び込んだ。数日後には、バイクを運転中、動悸がしたためバイクを道路に寄せタクシーで帰宅した。過呼吸症状が出てきたために救急車を呼んだ。パニック障害と診断された。精神神経症状以外は「足の裏の熱感・目の乾き・肩こり・背中のこり・腹部及び胃の膨満感」などの症状を訴えている。この方はノンカフェインのコーヒーや炭酸ジュースあるいは果汁ジュースなどの冷たい飲み物をかなり多く飲んでいた。

弁証

・八綱弁証:
表裏弁証:裏証
虚実弁証:虚実挟雑証
寒熱弁証:熱証
陰陽弁証:総合的に陽証である。

・気血弁証:心の気虚証

・五臓弁証:胃、心および肝に病位がある

・病理的産物弁証:水滞証

・病邪弁証:精神的緊張下における飲食不節

病名と選薬

胃も、心も、肝も熱証(火旺状態)であることから「胃熱証を併発した心肝火旺証で水滞証を伴った病態」である。

胃・心・肝の火旺状態を鎮める作用のある生薬群と、水滞証を改善する化痰利水作用のある生薬群を配合していけば良い。なお、この方の病邪は飲食であるから飲食の養生が必要であった。

経過

この方は病気の原因を飲食不節であることを理解してもらえず効果が出てくるのに時間が必要だった。
良くなりつつあるとご報告があったのは4ヶ月を過ぎたあたりであった。「一人でいるときの不安感や恐怖感がかなり改善した。付き添いがある時にはかなり遠くの買い物にも行けるようになった。」とのこと。しかし、この時点では冷たい飲み物を一気にゴクゴクと飲むことは少なくなったとのことではあるが、コーヒー・水・お茶・ノンカフェインのハーブティ・飲む酢など、飲み物はなかなか減らすことが出来なかった。ただ、この2ヶ月後には嬉しいご報告が届いた。「一人で外出するする時の恐怖が軽減している。一人で買い物ができるようになった。喉から胃での閉塞感はあるが胃部や腹部の膨満感は全くなくなって胃もスッキリしている」と。ただ、未だに飲み物を減らすことが出来ない。

何やかやとありながらも治療を始めてから1年を過ぎたあたりには「子供の頃からコックになりたくて仕事も料理の道を選んだ。美味しいものを追求してきたので冷たいものや甘いものなどを控えるのが難しかった。現在は起床を早くして就寝を早めたので夜食は格段に減ると思う。」とのことであった。2年経った頃、「パニック発作が出ずに夏を過ごせた。予期不安が出ても10分ぐらいで治まり、かつ症状も弱い。調子が良かったので缶コーヒーを飲んだりしている。」との報告。その1か月後にはさらに嬉しいご報告を戴いた。「今月は目に見えて効果が出てきたと思う。行動範囲が広がった。念には念を入れて今年いっぱい漢方薬を飲もうと思う」。

廃薬をされたのはそれから半年ほどであった。計2年半の服用であった。今は「昔のように、氷で冷やした飲み物を飲む習慣はなくなった。開始当初からすると今は雲泥の差である。」

考察

この方はもともと頑張り屋さんであったようだ。その方が忙しい仕事で緊張感を高めすぎたために機能の亢進を起こしたことがきっかけとなった。機能の亢進は熱邪となるために、その結果として湿邪を呼び込んでしまったと病態であった。