漢方医学には次のような言葉があります。
この言葉から自律神経失調症の発症の原因をうかがい知ることができます。
「外因は内因を通じてはじめて発現する」
内因には
・体質的な素因(偏虚体質・偏寒偏湿体質・偏熱偏燥体質)
・精神的ストレス
の二つをあげています。
一方、外因は
- ・飲食不節
- ・外感六淫(自然現象)
- ・労倦(体の使いすぎ)
- ・房室過多(性生活の過多)
- ・外傷
- ・中毒
などをあげています。
以上から、「体質的素因が少なく、かつ、精神的ストレスを受けにくい方(内因の小さな方)は外因の襲われても体調を乱しにくい。しかし、体質的素因を大きく持っているか、精神的ストレスを受けやすい方(内因の大きな方)は少しの外因でも体調を崩してしまう」と言うことがわかります。
漢方医学で考える病気の成り立ち
「発病には体内の正気の衰弱が最も重要である。正気が内に存在すれば邪気は侵すことができない。邪気が集まるところは必ずその正気が虚しているところである」
「正気」とは「陽の気」と「陰の液」が正常に運行されている状態です。この「陽の気」と「陰の液」のバランスを乱してしまうと、正気(抵抗力=回復力)が弱まってしまう。この状態のときに邪気(外因)に襲われるとそれを跳ね返すことができなくなり、発病してしまうと言うのです。
自律神経失調症あるいはパニック障害で精神神経症状が出てくるのはなぜ?
漢方医学では五臓の中の「心」および「肝」を乱すからと説明しています。「心」と「肝」の働きをみてみましょう。
漢方医学では「心の働き」を次のように捉えています。
1.心は血脈をつかさどる
2.心は神(かみ)をつかさどる
1.の「血脈」とは「血の流れ」を意味していますので、現在の心臓を指していると考えられます。
2.の働きが精神神経症状を指しています。「神」とは高次レベルの精神活動を意味していますので大脳新皮質系の働きを指していると考えられています。つまり、漢方医学では高次レベルの精神神経症状である「パニック障害・不安感・恐怖感・神経過敏・不眠」などは「心という臓器」の乱れ(虚状態)によって起こると考えているのです。
漢方医学では「肝の働き」を次のように捉えています。
1.肝は血を蔵す
2.肝は疏泄(そせつ)をつかさどる
1.の血を蔵すとは肝臓は血液の豊富な臓器ですので、現代医学と同じ機能を指していることがわかります。
2.の疎泄とは「人は木の枝葉が天空に向ってのびのびと広がっていく状態出なければならない」という意味ですから情緒系の働きを示したもののようです。情緒系の精神活動は間脳系の精神神経症状である「イライラ・怒り・泣き叫ぶ・ヒステリック・うつ・憂うつ・緊張」などですから、「肝」と言う臓器は間脳も指していると言って良いと思います。
漢方医学では病態を五臓に帰属させます。自律神経失調症に伴いやすい精神神経症状もまた五臓に弁別します。
「パニック障害・不安感・恐怖感・神経過敏・不眠」などは「心に病位」があり、「イライラ・怒り・泣き叫ぶ・ヒステリック・うつ・憂うつ・緊張」などの症状があると気には「肝に病位」があると考えます。
漢方医学では精神神経症状が併発していても他の病気と同じように五臓に弁別してその臓器の状況で説明しているのです。この考え方では虚実熱寒陰陽を知り、五臓のどこに病位があるのかを弁別していけば良いことになります。自律神経失調症やパニック障害のように精神神経症状が主体であっても通常の病態分析を行えば良いのです。