【漢方薬屋のひとりごと10】 煎じ薬は使いません。

こんにちは。

自律神経失調症/パニック障害専門のせいゆう薬局です。

今回のひとりごとは

です。

漢方薬のイメージとしては、煎じ薬を想像される方も多いのかもしれません。
生薬(草根木皮を乾燥させたもの、稀に動物・鉱物なども含みます)をゴリゴリとすり潰していく昔ながらのイメージです。

イメージ図

ただ、当店は漢方薬の専門店でもありますが、煎じ薬は一切使っていません。

それでは、使わない理由をつぶやいていきます。そして、エキス剤を使う理由もつぶやいていきたいと思います。


煎じ薬は基本的に高額です。

煎じ薬に対して、エキス剤というものがあります。
エキス剤は、生薬を煮詰めてドロドロの液体(エキス)として成分抽出を行ったものです。

ドロドロの液体のままでは服用出来ないので、添加物を加えて粉にしたり、顆粒にしたり、錠剤にしたりとして服用しやすくしています。
このエキス剤は比較的安価で購入出来ます。(あくまでも”比較的に”です。)

一方、煎じ薬を本格的に調合していくとすれば、生薬を1つ1つ仕入れていくことになります。
(250近い生薬が存在しています。)

1つ1つ厳選

「ここの産地の質の良いこの生薬をこのメーカーから」、「こちらの生薬はこの産地での質が良いのでまた別のメーカーから」と手間暇かけてこだわり抜いて生薬を1つ1つ仕入れていきます。

こうして手間暇かけて仕入れた生薬で漢方薬を調合すると、どうしても高額になります。
1ヶ月分で3万円5万円、最も高額なもので10万円まで聞いたことがあります。
でも、健康のためならとこの金額で購入されている方も確かにいらっしゃるのが事実です。

エキス剤に比べて、金額差2倍程度は普通です。5倍、10倍とすることもあります。
それでは効果の差も2倍、5倍、10倍とあるのかと言われた時、実際のところはそこまでの差はないのが実情です。

昔に比べて、エキスの抽出技術(製薬技術)が格段に進歩しています
漢方薬メーカーの弛まぬ努力により、煎じ薬とエキス剤の効果の差はほぼなくなってきています。

ただし、厳密に比べてみた時には煎じ薬の方が効果は上なのであろうと考えています。
それは否定の出来ない事実です。

その効果の差に、その金額差を払うのか。申し訳ないですがコストパフォーマンス(費用対効果)が悪いと感じています。


煎じ薬はご自宅で、漢方薬をお茶のように煮出し・煮詰めていきます。

1日分を朝に1度煎れる形になりますが、まず時間がかかります。
土瓶や専用電気ポットなどが必要になり、煮出す時間が30~40分かかります。

その日の分だけを煎れることになりますので、その日の内にもちろん飲み切ります。
つまり、この30~40分の煎じる作業を毎日必ず行うことになります。この手間は思っている以上に大変です。
そして朝の煮出しを忘れると1日分の服用が出来ません


また、漢方薬には独特の匂いが存在します。良い匂いのものもありますが、大抵はなんとも言えない匂いです。(敢えて臭いとは言いませんが独特なのは間違いありません。)
まれに漢方薬の匂いで吐き気を催す方もいらっしゃるほどです。

この煮出す作業を毎日のように繰り返していくと、家の中が漢方薬臭で満たされていきます。
部屋の中のものはもれなく漢方薬の匂いのするものに変貌していきます。
もちろん、髪の毛や洋服にも匂いは移ります。

服用している本人はあまり気にならないかもしれませんが、街行く人から漢方薬の匂いが漂ってきたら、、、と考えると匂った側の方がどう感じるのかは気になってしまいます。

職場で隣に座った方から、強い独特な匂いがする。おそらく普通の方には、それが漢方薬の匂いかは分からないです。

何の臭いだろう?

このため、漢方薬を煮出すためだけの部屋を準備したという方もいらっしゃるほどです。
匂いについては、換気扇を回しておけばある程度は対応が可能です。ただ匂いをシャットアウトは難しいです。

これだけ匂いと戦い、煎じ薬を煮出す作業を頑張ったのです。さぞかし効果が高く出てくれることでしょう。

今風に言えば、タイムパフォーマンス(時間対効果)が悪いとなるのでしょうか。


当たり前なのですが、漢方薬を服用する上で一番重要なのは、服用している処方が改善させたい症状を治療出来るものかどうかです。

治療に最適な漢方薬を選べた上で

同じ処方の比較として、煎じ薬とエキス剤を比べた場合、効果の軍配は煎じ薬に上がることになるかと思います。

エキス剤よりも効果の期待出来る煎じ薬ですが、そもそも処方の選び方が間違っていると全く効果は出てきません。当たり前の話です。
選薬を間違えた場合、体調不良を起こすことさえあり得ます。

反対に、煎じ薬よりも劣るように思われがちなエキス剤ですが、最適な処方を選べていれば問題なく効果は得られます。
煎じ薬か、エキス剤か、という選択の前に最適な処方を選べるかどうかの方が重要なのです。
あまりここを重要視していない方が多いようです。

薬局によって
処方される漢方薬は違うよ

どこの漢方薬屋に行っても、知識豊富な薬剤師が「適切な漢方薬を選んでくれるに違いない」と考えていらっしゃるのかと思います。

ただし、実際のところは、全く同じ相談を複数の漢方薬局に持ちかけた場合、それぞれで出てくる漢方薬が違うものになるかと思います。
これは選薬能力(最適な漢方薬を選ぶ能力)が、どれだけ似たような症例を治療し改善させてこれたかという経験数に大きく依存しているためです。
治療に取り組んだ数と治せた数が大事です。

どこの漢方薬局に行っても自分には同じ処方が出てくると仮定した場合は、煎じ薬を扱っている薬局の方が高い効果を見込めるという考えであれば、確かにその通りです。


漢方薬は効果が出てくるのがとても緩やかなものです。
したがって、効果が出てくるまで辛抱強く服用を続けなければなりません。

また、効果が出てきてからも、しっかりと改善していくまで服用を続けていく必要があります。
つまり、服用を継続出来るかどうかも本当に重要なポイントになります。

当店は煎じ薬の効果を否定する気持ちは全くありません。
遥か昔から脈々と受け継がれてきた服用形態であり、おそらく未だに効果を最も出せる服用方法であるという点は間違いないと考えています。

という方にとっては、最も適した服用形態になると考えています。

ただ、製薬技術が各段に進歩した今、煎じ薬とエキス剤の効果の差がそれほど大きくないという状況ではエキス剤はとても利点のある、多くの方にとってのベターな選択肢になるものと考えています。

特に服用しやすい(継続しやすい)という点においては、煎じ薬をはるかに上回るものと考えています。

継続が大事!

繰り返しになりますが、漢方治療で重要なのは服用を継続することです。

どれだけ効果の高い漢方薬でも、どれだけ病態・病因に適した漢方薬でも、服用を継続出来なければ効果は引き出せません。

以上が当店が煎じ薬ではなく、エキス剤を治療に用いる理由です。

もちろん、継続性だけではなく、最適な漢方薬が選薬出来ているという大前提を基にした時のお話ではあります。


今回のひとりごとは以上です。
結局、また長文となってしまいました。

煎じ薬の効き目は確かです。エキス剤よりも効果はあります。
そして信念を持って煎じ薬での治療を行っている漢方家の方がいらっしゃいます。
また、毎日の習慣として煎じ薬を煮出し、服用を続けていらっしゃる方ももちろんいらっしゃいます。
煎じ薬での治療を否定するつもりは全くありません。

当店の治療方針として
なるべく安価に、出来るだけ改善を引き出していけるように
と選択していった結果、エキス剤の使用に至っているだけです。

実際のところ、
エキス剤であろうが
煎じ薬であろうが
高額であろうが
(比較的)低額であろうが
飲みやすかろうが
飲みにくかろうが

その方の不快な症状が改善してしまえば大きな問題ではありません。

いろいろな漢方薬局(病院)が治療方法を提案し、お客様(患者様)が自分に適していると思える治療法を選択していけば良いのかと思っています。

今後も当店の治療方法・方針で、改善させられる人を増やしていきたいと思っています。

最後までお読みいただきありがとうございました。