発病の経過と症状
食欲が減ってきたのは3ヶ月ほど前から。ここ3週間前からは、その傾向が強くなり、ほとんど食事を摂らなくなった。同時に腹痛・下痢・胃痛も出ている。お父さんは「毎日の部活での練習と友達関係の緊張感が強いのが引き金だと思う。もともと、人に対して気を使いすぎるところがある。」と仰っておられる。食事をまったく摂っていないことから身長149cmに対し28kgまで体重が減少、強いヒステリー症状が見られる。血中のケトン体は通常の100倍以上。昨年、4月に初潮が始まったが、ここ3ヶ月ほど前からはないとのこと。
弁証
・八綱弁証:
表裏弁証:当然裏証である。
虚実弁証:「疲れやすい」と言う症状はあるものの、「体がだるい、日中眠い」と言った気虚の症状はない。さらに、「食事をほとんど摂っていないのに部活を頑張っている、比較的元気である」ことからも単なる気虚証ではないことがわかる。虚実挟雑証と判断した。
寒熱弁証:イライラする・ほてり・寝つきが悪い・のぼせる・冷たい飲み物を好む・多怒・ヒステリックになりやすい」などの症状から熱証であることがわかる。
陰陽弁証:総合的には機能の亢進状態であるので、陽証と判断した。
・気血弁証:気の症候である陽虚証はない。胃に張りが出ることから気滞証が存在する。血の病証では「爪は薄くて割れやすい」と言う症状があることから、血虚証があるが、陰虚証と血滞証は存在しない。
・五臓弁証:「食事はおいしいが少しの量しか食べられない、食べると胃が張る、胸やけを感じる」などの症状は胃の実証である。また、感情の乱れが異常に強く、母親とたびたび激しい口争いをしているとのことであった。さらに、生理が停止していることを考えると、肝気欝結証を基盤とした肝胃不和証であることがわかる。肝胃不和証は「肝」と「胃」の実である。
・病理的産物弁証:「食事はおいしいが、少しの量しか食べられない」ことから気滞証があることがわかる。なお、水滞証及び血滞証は見られない。
・病邪弁証:内傷七情(精神的ストレス)
病名と選薬
肝胃不和証は疎肝解うつ剤が主体となる。
経過
・服用3ヶ月後のご連絡では「朝は食パン1/2切れのみ、昼と夜は握り寿司1.5ヶ分程度のご飯を食べている。最初の1カ月ほどは点滴をした。入院はせずしばらく様子見が続いた。ヒステリックと言って良いほど感情は強く乱れている。」
・5ヶ月目の連絡では「毎日、学校に通っている。太ることを気にしている。ヒステリックな感情の乱れは出ているが、感情を乱している時間が短くなった。」であった。
・半年後は「胃痛・みぞおちの不快感は言わなくなった。強い感情の乱れは少しずつ減ってきた。」体重若干増
・1年後、「食事量は少し増えてきたが、それでも人の4割程度。しばしば大きく感情を乱す。」と連絡をいただいた。ケトン体安定。
・1年半後、「少ないが食事は規則正しく取る。体重も少しずつ正常へ」
・1年10ヶ月後には「規則正しく食べるが、胃がつまって食事が充分には入らない、今月は生理の兆しがあった」。
・漢方薬を服用して2年後のご様子は「食事の量はかなり増えてきた。体重もやせ形であるが正常。今月も生理があったが、生理量が極めて少ない」であった。その後、「食事量は順調に増えてきているが、胃が小さいのか人よりも食べる量が少ない。生理期間は3~4日ほどで、順調にきている。感情の乱れはほとんどないといって良い。」とご連絡をいただいた。
・2年半経った現在も漢方薬を服用されているが、これまで拒否していた肉類やアイスクリームなども食べるようになった。食事の量は少ないものの何でも食べるようになった。生理も順調である。感情の乱れもない。異常なところは見当たらないので、そろそろ廃薬しても良いと思っている。
考察
彼女は精神的緊張を強めて生活をしてきたことが、今回の自律神経失調症の基盤となっていることは間違いないことである。たヾ、強い拒食症が始まったのは生理が停止したときであったこと、生理の復活とともに、拒食症は急速に改善してきたことを考えると、彼女が体調を崩した直接の原因は女性ホルモンを乱したことであると考えて良いと思う。