発病の経過と症状
この数年、不眠で悩んでいる。昨年まではプールで泳いだ日は何とか眠れていたが、膣炎にかかったために、スイミングを止めてしまった。そうしたら、ますます眠れなくなってしまった。寝つきが悪いうえに、眠りが浅く、夢が多い。日中は時間があると、ついウトウトしてしまう。昔から不眠タイプであったが、生理不順になってから、特に強くなってきているような気がする。膣炎は治療を受けているにもかかわらず悪くて、治る気配はない。最近、どうしても眠れないためにプールに行ってみたが、疲れすぎるのか余計眠れなくなった。
弁証
・八綱弁証:寒証・虚実挟雑証
・気血弁証:気虚証・血虚証
・五臓弁証:心病
・病理的産物弁証:特になし
・病邪弁証:労倦
病名
寒証で気血両虚の心血虚証である。 選薬は寒証で気血両虚の心血虚証の薬方
経過
同方の2ヶ月の服用ではまったく変化は認められなかった。しかし、3ヶ月目に入ってから、何となく身体に力が湧いてくるのを感じるとともに、不眠が以前よりは良いような感じがする。ただ、膣炎は変化はない。4ヶ月目に入って、明らかに眠れるようになってきた。寝つきもそれほど悪くない。特に変わってきたのは熟睡できるようになったことである。6時間ほどは眠っている。ただ、まだ安定はしていない。膣炎はおりものが少なくなってきている。病院でもきれいになってきていると言われた。
この方は半年経った今でも服薬中であるが、疲れることをしない限り、眠れるようになっている。膣炎は早い段階で完全に治った。
考察
この方はゆっくりとしたしゃべり方をなさる方である。この方の不眠は「寝つきは良いが熟睡できない」タイプであった。このタイプの不眠は「心血虚証」である。体調が崩れた時期が閉経の年令であり、かつ、生理不順が始まったころだったということから更年期との関係が強く示唆された。
通常、閉経を迎えられると、卵胞ホルモンの減少のために、イライラや怒りっぽいまたは微熱感が現われてくるが、この方は体質的に寒証のため、興奮をおこすだけのエネルギーが出てこなかったものと思われる。この方の場合、更年期時の体調の変化は免疫力の低下として現れ、頑固な膣炎を起こしたものであろうと推定される。このような膣炎は免疫力が病的に低下をしていることで発症しているため、抗生物質の使用は無効であったと思われた。この例は抗生物質の抗菌力がいかに強かろうが、生体にそれを受け入れる下地がなければ効果を発揮しないという典型であった。