経験例17 学校に行けない男子中学生 【 自律神経失調症の治し方 】

発病の経過と症状

発病は2年前の14才のときで、現在、不登校である。本人は「人間関係または学校生活による精神的ストレスが原因である」と考えておられたようである。運動後や食事の前後あるいは外出時に悪化する。たくさんの不快な症状をあげておられたが、一部の症状だけを紹介する。
「恐怖感が異常に強い・パニックを起こす・めまい・ふわふわするする・いつも眠い・頭がボーっとする・肩首が異常に凝る・息苦しい・非常に疲れやすい・不眠症・動悸・のぼせ・胃が苦しくて呼吸ができない・不安感が強い」など。

弁証

・八綱弁証:裏証・虚実挟雑証・熱証、総合的には陽証。「倦怠疲労感が強い・気力がない」などの気に強い虚が起こっているが、冷たい飲み物を約2リットル程度飲んでいること、胃酸の分泌が過剰に起こっていることから、虚実挟雑証と判断した。

・気血弁証:「疲れやすい・元気が出ない・食慾がない」ことから脾気虚証と判断された。

・五臓弁証:「強い恐怖感・怒りが強い・ヒステリックになる・胃酸の過剰な分泌」などの症状があることから、「心」と「肝」と「胃」に強い興奮が起こっていことがわかった。三つの臓器に病位があると判断した。

・病理的産物弁証:「動悸・めまい・立ちくらみ・乗り物酔いの四つの症状から、痰飲証があり、全身的にむくむと言う症状から水湿証があることがわかった。水滞証が強く出ている。

・病邪弁証:「身体に熱感を感じる・冷たい飲み物を異常に飲んでいる」ことから熱邪に侵されていることは容易に理解された。また、水滞証を起こしていることから湿邪の存在があることがわかる。以上から、この方の病邪は熱邪と湿邪であると判断した。

病名

この方は熱邪と湿邪に侵襲されている病態である。湿熱証に対応する処方を選んだ。

経過

1ヵ月後にはだいぶ症状がなくなってきた。椅子に座っているときに出てくるふわふわ・ふらふら感は出なくなった。たヾ、そのほかの症状は強く出ている。3ヵ月後には「状態は日に、日に改善してきているのが実感できる。人ごみや映画館あるいは電車の中は大丈夫になった。短期間にこゝまで良くなって、正直、驚いている。」とご連絡を受けた。5ヶ月後、飲食の不節があって、体調が悪化した。しかし、食養生を再開してから、体調がもとのよい状態に戻ってきている。
10ヶ月後、「不快な症状はほとんど消えた。あえて言えば、熟睡できていない。もう少しで、不快な症状のほとんどが消えてくると感じている」とお話をいただいた。

考察

この方の場合、精神的緊張を強めて学校生活を送っていたことから、精神的緊張が熱邪になったと思われる。その熱邪が身体に不要な熱を発生させてしまったために、冷たい飲み物を異常に好むようになってしまったようである。この冷たい飲み物が湿邪に転化してしまって、湿邪によるさまざまな体調不良を引き出したと言う典型的な例である。
湿邪に侵襲された病態を日本では「水毒証」と言っているが、この病態は「飲んでいる水分があたかも毒のように体を痛めつける病気」である。経験上、湿邪に侵されたときには高次レベルの精神神経症状が引き出されることが多いと思う。この方は現在12ヶ月目を服用中であるが、不快な症状はほとんど出ることがなくなっている。